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【注目の岩田健太郎教授が分析】しゃかりきな、水際対策、意味あるの?
―日本の過去の感染症対策を振り返るー

インフルエンザ なぜ毎年流行するのか③

◆日本以外はやらない「重々しい」警戒態勢

 問うべきは、「あるかないか」というイエス・ノー・クエスチョンではありません。

 そうではなくて「水際対策はどのくらい効果があり、それは労力に見合うものだったのか?」という発想が必要なのです。

 磯田貴義氏のウェブ上で公開されているパワーポイント・スライドによると、海外から輸入されているマラリアで、検疫所で捕捉したのは患者の2・9%だそうです。ほとんどは国内に持ち込まれてしまっている。

 というか、そもそも、マラリアは国内での流行はほとんど想定しなくてよい感染症です(厳密に言えば、ありえない話ではないですが……)。

 検疫所で捕捉しなくても、その後病院とかで診断すればよいのです。「水際」で止める意味は非常に小さい。

 これは同じように蚊を媒介して感染するデング熱なども同様です。ちなみに、デング熱の検疫所での捕捉率は13・7%。デング熱は発症までの時期が早いので現地や飛行機の中で発熱していることが多いので、マラリアよりは検疫で見つかりやすい。とはいえ、8割以上はやはり「スルー」してしまっている。これでは実効的な「水際対策」とはとても呼べないんじゃないか。

 https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/kikikanri/H27/15-2.pdf

 感染症は感染してから発症するまでのタイムラグがあります。これを「潜伏期間」と呼びます。たとえ病原体をもっていても、熱とかがなければいとも簡単に日本に病原体は持ち込まれてしまうんです。

 ぼくは昔から不思議で不思議でしょうがないのですが、海外に行って、成田空港とか関西空港とかに降り立つと、たくさんのポスターや張り紙があり、「検疫ブース」があって、熱や下痢や体調の悪い人は申告するよう求めています。ところが、他の国に行ったとき、このような重々しい警戒態勢をしいている国はひとつも見たことがありません。ヨーロッパ然り、南北アメリカ大陸然り、アジア然り、オセアニア然り。

 あれは、本当に有効な対策なのでしょうか。それとも「仕事しているフリ」なのでしょうか。他の国ではやっていない対策が、なぜ日本でだけ必然化されるのでしょうか。

 誤解していただいては困りますが、空港に診療機能があるのがいけない、と申し上げているのではありません。もちろん、どこの国の国際空港にも診療所その他があって、病人が発生したときに対応できるようになっています。たくさんの人々が往来する空港で、発熱患者、下痢患者、咳の患者といった感染症のみならず、心筋梗塞や外傷などに対する対応機能があるのは必然と言えましょう。

 が、これを「水際対策」、すなわち、感染者を国内に入れないための機能として行うことに「どのくらいの」意味があるのか? そして、その有効性を示す実績があるのか? 日本が他国と異なる方法をとったことで、どのくらい日本は得しているのか? と問いたいのです。

KEYWORDS:

『インフルエンザ なぜ毎年流行するのか』
著者/ 岩田健太郎

本屋さんの「健康本」コーナーに行くと、たくさんの健康になる本とか、病気にならない本とか、長生きする本とか、若返る本とか、痩せる本とかが売っています。ところが、そのほとんどがインチキだったり、ミスリーディングだったり、センセーショナルなだけだったり。要するに「ちゃんとした」本がとても少ないのです。そういうわけで、感染症や健康について、妥当性の高い情報を提供しようと、本書をしたためました。

岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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  • 2018.11.09